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2017/12/08

平成29年度 生物地学研修会 夏期研修会報告

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平成29年度 更埴理科教育研究会 夏期研修
~志賀高原の地形・地質・水質・植生の特徴~

日時 8月2日(水)~8月3日(木)

概要
 志賀高原一帯は20万年前の地殻変動によって形成された堰止湖が湿原化した地形で、横手山や岩菅山等の山々を擁する、標高約2000mの亜高山帯である。現在も続く火山活動により噴出した硫黄分により、大沼池等の湖水の多くは強酸性を示し、魚類は生息しない。
 植生はシラビソやオオシラビソの針葉樹林とダケカンバの混交樹林で、これにツツジやクマザサ等の灌木が加わる。昆虫・野鳥も多く見られ、硯川にはゲンジボタルの生息地があるが、これがほたる温泉の由来になっている。一部の河川にはサンショウウオが生息している。
 一帯は古くから佐野・沓野~草津の流通の道として、又、信州・上州両国の人々の入会地として利用されてきた歴史がある。
 その豊富な森林資源や鉱床を求めて、幕末期には松代藩の洋学者・佐久間象山(181164)が開発に乗り出し、科学的な調査記録を残した。その際に発見されたと伝えられる熊ノ湯等の温泉は、近代以降も多くの人々が訪れる観光地となり、現在は国立公園に指定されている。
 今回は、志賀高原の地形・地質・水質・植生等、主に自然地理学的な観点から観察できる経路を、専門ガイドの斉藤裕樹さんに案内を頂きながら、約16kmの行程を半日掛けて踏査した。
 ルートは以下の通りである。
【熊の湯・ほたる温泉~前山~渋池~象山の森~鉢山~志賀山~四十八池~大沼池~清水】

平成29年8月3日(木)
午前9時・曇・22
ほたる温泉のリフトに乗り前山に集合、ガイドの斉藤裕樹さんも合流し、トレッキング開始。

象山の森

大小の浮島が漂う渋池

渋池は、その名の通り火山活動により水が強酸性となっている。水底は褐鉄鉱により赤褐色に見える。植物の遺骸が浮島となって、動いているところが見られることもあるという。水際には食虫植物モウセンゴケが群落を作っている。

シラビソの極相林

木道脇の湿地には獣の足跡

 シラビソ等の針葉樹林とダケカンバ林にクマザサの灌木が続く亜高山帯の植生である。腐植層からは手の平サイズのヤスデが見付かる。湿地には獣の足跡も散見された。
 鉢山に至る登山道の通称は「象山の森」。嘉永年間に佐久間象山が一帯の森林・地質を科学的に調査したことに由来する。その記録は「沓野日記」に詳しい。象山は、日記に気温や温泉の水温を華氏検温器(ファーレンハイト温度計)で計測している。この辺りでは、針葉樹からテレメンテイナ(テレビン)油を採取し、精製して医薬品や火薬の原料に用いている。

濃霧の中鉢池を僅かに確認

ワタスゲが茂る四十八池の1

 鉢山は、2万年前の火山活動によって噴出したマグマの急冷により形成されたスコリア丘である。山頂からやや下った位置には鉢池と呼ばれる円形の火口湖が見られる。
 一旦平地に出ると、四十八池と呼ばれる湿原に出る。以前は深い湖沼だったが、長い年月を経て植物の遺骸が泥炭となって堆積し、少しずつ埋め立てられて草原へと遷移している。

志賀山から大沼池を望む

大沼池

午前1150分・晴・20
 志賀山の山頂で昼食。徐々に雲が晴れて、眼下に大沼池を見下ろす。火山活動により溶け出した金属成分により湖水は美しい青色をしている。
 大沼池は、有史以前に火山噴出物により河川が堰き止められて形成された堰止湖であるが、水深は最大で26mもあると言われている。
 湖水に流入する川の水を口に含むと酸味と渋味が混ざった様な味がする。付近の地下に分布する黄鉄鉱や黄銅鉱が地下水に溶け出し、水質はpH4の強酸性となる。生物は、藻類が僅かに見られるだけである。水底の石を採集してみると、鉄分により赤褐色に変色している。
 又、水底の一部からは、絶えず気泡が噴き出しているのが観察される。火山性のガスなのかどうかは不明である。
 大沼池には、その神秘的な姿から古来より竜神(大蛇)の伝説があり、湖畔には竜神を祀った祠がある。現在でも毎年8月下旬に大蛇祭が行われている。祭の由来となった、大沼池の主「黒竜」と領主の娘「黒姫」の物語はよく知られている。

褐鉄鉱の付着した水底の石

池尻付近から志賀山方面を遠望

 大沼池を過ぎてからは平坦な道を歩いて発哺温泉方面に向かう。途中、残雪が見られた。
 安山岩質の岩塊の隙間からは、冷たい空気が絶えず噴き出している。風穴である。よく観察すると、ヒカリゴケが淡い光を放っていた。

ヒカリゴケが見られる風穴

清水公園の湧水で疲れを癒す

午後4時・晴・24
 清水公園口にてトレッキング終了。ここの水は酸味も渋味も無く、清冽な湧水である。湧き出し口の一部には石灰質の沈殿が見られる。水質は酸性では無さそうである。全員で渇きと疲れを癒し、宿舎に向かった。実地を体験することの大切さに改めて気付かされる1日になった。

志賀高原の地史や植生について実地研修

標高2041m鉢山の頂にて




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